先人の知恵 「薮のある家」/家

( 旧編集委員会 1980年6月 筆 )

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 これは別に今村に限った話ではなく、どこへ行っても見られる風景だが、農山村では屋敷の一角に竹ヤブのある所が多い。

 この屋敷の竹ヤブは、大自然を相手に生きてきた先人たちの生活の知恵の象徴といってもよい。

 まず第一に、竹ヤブは地中を縦横にはびこる強靭な根のおかげで地震に滅法強い。地割れを未然に防ぎびくともしないから、よほどの大地震にも安全な避難場所になる。強烈な暴風で巨木が根こそぎされることはあっても竹ヤブはのらりくらりと強風をいなして、竹が折れ倒れるということはないから屈強な防風壁にもなる。それは寒い北風を防ぎ、夏は暑い風を適当に冷し日陰を供給する天然の空調設備でもある。

 そして更に、竹は古来日本人とは切っても切れない重要な民具材でもあった。竹カゴやザルの類から道具の柄、桶のタガ、更には柄杓から火吹竹に至るまで、日常生活用具の恰好の材料になる。

 そればかりではない。一旦外敵に襲われるとなれば、ナタでスパッと斜めに切りとり技を払えば竹槍という立派な武器にもなるのだから、こんな重宝なものを屋敷内に持たぬテはないではないか。

 しかもその上、春から初夏にかけては筍という食品を提供し、その筍の皮(つまり竹皮)は丈夫な包装材であり、こまかく裂いてワラジなどに編みこめばその強度は倍増する。

 先人たちはこのように、竹を十二分に使いこなして生活に役立てていたのである。農家の屋敷内でサワサワと鳴る竹ヤブこそは、生活を豊かに守る必需品として、なくてはならぬものだったのだ。