お鍬祭と虫送り

1685年 ( 矢野清次 1979年7月 筆 )

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 今から50年位前までは、今頃の季節になると村中が青々とした稲田にそよ風が吹き、夜ともなれば蛍飛び交い、何とも言えない風情であった。7月の中旬になると、年中行事のお鍬祭りと虫送りが八王子神社で行われる。

 現在はお鍬祭の神事だけが行われ、虫送りの方は農家も殆どなくなったため、行われなくなった。

 お鍬祭りは元来、五穀豊饒、家内安全を祈願して行うものだが、現在では商売繁盛、家内安全を祈って行われている。昔は毎年7月11日と決まっていたが、今はそれに近い日曜日に行う。

 神社には貞享2年(1685)5月と銘のある木製の鍬が保存されている。祭りの当日には竹に御幣をつけ、鍬を飾って豊年を祈る神事を行い、神事が終ると御幣をつけた青笹竹を持ち太鼓を叩いて「おーくわさまのおくりよう、1束3把で5斗8升、あとはおかかのまつばりよう」と唱えながら田の畔を一巡しつつ今の共栄通りを東に進み、瀬戸川堤を西へ、水神様(今の效範橋東の北岸)に到着すると、ここで豊年と水不足のないようにお祈りをして、更に川西(昔の川西嶋のこと。今の效範町以西)、根の鼻(今の川北町)に出て南へ進み、共栄橋の東から寺山の裏を過ぎて八王子の宮に帰るのである。

 昔からこの日の御酒は1斗5升と定められているが、この酒をくみかわして、御幣のついた笹の技を持って帰宅する。豊作と家内安全を祈り神棚に祀るのである。

 虫送りについては、お鍬祭の日に相談してその行事がきめられていた。虫送りには各農家からたい松を持って三郷の境に集り、一斉に火をつけたたい松を持って田の畔を東に進み吉田橋まで来る。

 夏の暗夜の青田の中に千点万点蛍のとぶよりも華やかな光景は、都会の人には夢想もできぬほど、まさに壮観であった。

 種々のすぐれた農薬の出来た今日、害虫駆除の行事としてお鍬祭や虫送りをすることの幼稚さを今の人は笑うかも知れないが、自分の田を愛する精神で村全体の田畑を愛しその豊作を祈る気持は、尊いというべきではあるまいか。