「心の華」と「今村の青年」

1911年~( 旧編集委員会 1979年7月15日 筆 )

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 昔の今村青年の機関誌が、西寺山町横山春一さん方に、大切に保存されていた。 その一つは「心の華」と題するガリ版手刷り110頁和綴じの冊子で、第1巻第1号、明治44年(1911)1月1日発行、東春日井郡旭村今青年会、とある。 内容は「発刊の辞・会長稲垣兼四郎」にはじまり、横山秀巌和尚、長江鎌治郎、伊藤浜吉氏らの講話、横山健一、青山佐太郎、青山忠治、横山鍋太郎、伊藤勘三郎、青山鉾太郎らの「論説」、「詞藻」というタイトルで会員たちの文章や詩歌俳句等がずらりと並べられ、巻未に「会報」として会計報告や会則などがついている。  ここに氏名の載っている人は殆ど故人となられた人ばかりだが、たった2人だけ現存者が見えるので紹介しておこう。一つは短文、一つは和歌である。

◎ 裸風呂   市場支部 三宅久七

 松の下に五衛門風呂をわかす。月影が浮く、虫が鳴く、妹が松竹梅を書いた行燈をつるす。

「せめて月でも書けば」と云うと「でもお祖父様が書いたの。お客を松、ぬるくば竹、あつくば梅、こういう趣向なんですって」

◎ 農村の青年 寺山支部 青山鉄市

 山里の門田たがやす ひまひまに文まなぶこそたのしかるらめ

 文まなぶこそたのしかるらめ

 一方、「今村之青年」は、創刊号が昭和10年(1935)9月発行で、活版18頁、瀬戸市今村男女青年団発行、編集人青山保、印刷所は名古屋古出来町の日進社となっていて、内容は団の活動報告や、訓話めいたものから会員の文芸作品など盛り沢山で、年代も新しいだけに現存者も多い。創刊号に出ている役員名簿によると団長が玉置巌、副団長が男青は早稲田柳右エ門と三宅寛一、女青は稲垣朝子と加藤道子で、理事に長谷川金吾、伊藤庄次(何れも当時の效範小教諭)らが名をつらね、編集員に三宅寛一・青山保・横山春一・塚本留一・松原茂・稲垣朝子・青山君江の7名があげられている。

 その第4号に瀬戸信理事長鈴木正人さん若かりし頃の美文がのっているので一つご紹介しよう。

◎ 奈良の秋   川西支部 鈴木正人

 夜来の雨も名残り無く晴れて、小春日和の秋の日は、のどかに地上に投げている。

 秋風が路傍のプラタナスの一葉を揺動かし、路行く少女の袂をかすめてゆく。サンデーの或一日、古の都、奈良に遊んだ。ザックザック踏み砕く小石の音も、唯なんとなく、しんみりとしている。池畔の五重の塔は、遠く過ぎ去った昔を回顧するかの様に、たたずんでいる。

 一匹の鹿が通り過ぎんとする我々に何か哀願する様な物憂げな、まなざしで見つめている。釣瓶落ちの秋の一日を遊び疲れて宿に入る。帰る路すがら広々とした草原に斜陽を浴びて啼く鹿の声は衷燐を漂わせ、ひたひた大気の中に波打って居る…。

 薄く這う夕霧に余韻を込めて晩鐘の鐘が……、猿沢のささ波に砕けて行く……黄昏……。

 奈良の秋は一入寂しく暮れて行く。(完)